人と獣の違い

『人と獣の違い』
The End of The Game - Peter Beard
1965年に出版された本書は、今は亡きアフリカを救おうとしたPeter Beardの切なる願いが伝わる傑作であり代表作である。
The End of The Game (Gameとは狩猟とターゲットになる生き物の事を意味する)の表紙に渾然と立ち尽くす雄の象が威圧的に迫り、これから読む者に強いインパクトを与える。
表紙をめくると一変して、可愛らしく綺麗な子像がカメオの様に横たわっている写真がある。白く柔らかなブランケットの上に眠っている子像は狩猟のターゲットとなった母象の体から出てきた亡骸なのだ。アフリカの大地を踏みしめることなく母の愛撫を受ける事もなく、白く剥き出された胎盤の上に横たわって日に曝されて深い眠りに着く子像の写真から私はPeter Beardの心の叫びを聞いた思いがした。
全ページに語られているのは真のアフリカであり、そこに住む命ある全ての生物のさだめが映されている。生きる為に狩猟する者、または娯楽としてゲームする者、そして両方からターゲットにされるアフリカの美しい生き物達の凄惨な姿が写真によって克明につづられている。
私達は、ページを捲るうちに土ぼこりの舞う熱い風と血生臭いにおいが漂うアフリカの大地を感じながら、野生動物と自然と文明という相反したふたつの世界の人達から人間の弱さを徹底的に学ぶ事になる。
文明社会に生きている私達が当時のアフリカの様な大地で住む事は、もはや不可能に近い。それは、まるで大きな荷物を背負いながらライフルを握りしめて、強い日差しの中で肉食の動物達から身を守り疫病などに怯えて生きる様なものだからだ。
トリガーに人差し指を当てスコープから逃げ惑うターゲットに狙いをさだめる。仕留めた獲物を満足そうにして記念写真に映るハンター達の姿は、現在も変わらない『力』社会を象徴して見るに耐えない。
かたや、そこに住む人々の顔からは張りつめた緊張感が見える。この場所で生きる事がどういう事なのか自然と対峙する事の過酷さが読み取れる。
食物連鎖の中に人間がダイレクトに取り組まれている国、アフリカは過酷な自然の中にも一つの正しい秩序があった。
それを文明社会から来たひ弱な生き物が、自己満足の為に知恵を使って後先を考える事なく破壊し尽くしたのだ。
人と獣(けだもの)の違いはなんだったのだろうか? 命の尊さを教え知る事が人として一番大切な事ではなかったのか?
ゲーム・ハンティングによって命ある物をないがしろにする考え方は、自己防衛や食料確保を目的とした狩猟とは比べ物にならない程傲慢で愚かしい行為だと思う。
最後の数ページにセスナ機から空撮された貴重な象の墓場や一体一体の亡骸の写真が並ぶ。砕けている、溢れている、骨が牙が、画面一杯に埋め尽くされている。そして知る。怖さ、愚かさ、悲しみ、憤り、不安。
The End of The Game、この本で凄まじい程の人の愚かさ弱さを見た後に諦めにも似た感情が過る。
この地球上にある全てのThe End of The Game は何時くるのだろうか。

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